この世界の片隅に

映像が素晴らしい。書き込みがすごく、時代考証がしっかりなされているから、まるで戦中の広島に入り込んだかのような錯覚さえ覚える。こんなレベルのアニメは久しぶりに見た。

一方、ストーリーはやや平凡に思えた。戦争に蹂躙される一般市民という、これまで戦争を描いた物語の定石通りと言った感じだ。火垂るの墓のような、子供2人で戦争から逃避する、といった物語的なひねりはない。

戦争を追体験させるという目的なら成功の作品だ。しかし、戦争への新たな視点を提供する、というものではないように思う。

最初、主人公のすずがお使いに行った時に人さらいに会う。その人さらいは毛むくじゃらの化け物だ。リアリズムに突如入り込むフィクション。いわゆるマジックリアリズムだが、この手法はそれ以降、ほぼ出てこない。もしこれが全編を通して用いられたとすれば、傑作になったのではないか。

とはいえ、ハイレベルな映画であることは間違いない。